日本は年間に約五万冊もの新刊書籍が発行される世界有数の出版大国です。出版社は、活字を通じて情報を伝え、文化を形成する役目を担っています。現在、この国の出版社の数は4千社を越え、多彩な出版活動を展開しています。 しかし、電子メディアの出現、大手古本チェーンの台頭、再販売価格維持制度の見直し、書籍や雑誌の「使い捨て」傾向の強まりなどによって、出版業界は大きな変革の時期を迎えています。
出版とは何か
「出版」は狭義と広義の定義が可能です。狭義には、書籍あるいは雑誌を生産し流通する過程を指します。言い換えれば、書籍あるいは雑誌の企画を立て、原稿を入手し、印刷・製本手段によって複製し、出来上がったコピーを流通機構を通じて読者に届けるという、出版者の担当する機能を意味しています。これに対して広義の出版は、狭義の出版過程によって生み出され伝達された書籍・雑誌を整理・保管・提供する図書館業務、読者の読書行為、さらには読者の反応を受けての著者の再生産活動までを含めて、情報・知識の全流通過程を意味して用いられます。後者の定義は私達にとってあまりなじみ深いものではないかもしれません。しかし、歴史的な過程の中での出版文化の形成を追っていく際や、発展途上国等における図書開発を分析していく際には、広義の出版概念の活用が不可欠となります。
出版の歴史は古く、活字を通じた印刷方法のみに焦点を絞っても、その起源は木版印刷を発明した宋代の中国や銅活字を発明した高麗時代の朝鮮にまでさかのぼります。さらに、人間の手を使って書物を印刷する「写本」の技術は活字よりもはるか以前から世界中の様々な地域で(植物繊維を原料に製造した「紙」というハードウェアに限定されず)極めて多様な発展をみせていました。
しかし、出版はある時点を境にユーラシア大陸の西方で急速な拡大と普及を遂げ、近代国家を形成し維持していく大きな原動力となりました。出版は社会の産業化や教育化、再統合に寄与する一方、社会を批評する空間をも大量に生み出すことになります。それは日本においても例外ではありません。日本では江戸時代から「出板」という言葉が草双紙・錦絵・暦などの不定期刊行物に対して使われはじめていましたが、明治20年になると政府が初めて「凡ソ機械舎密其他何等ノ方法ヲ以テスルヲ問ハス文書図画ヲ印刷シテ之ヲ発売頒布スルヲ出版ト云」として「出版の定義」を打ち出し、出版活動を統制していく姿勢を明確にしています。出版の歴史を知るということは、近代を知るための一つの手がかりを探す行為でもあり、私達の社会の存立構造を内側からみる行為でもあります。
